僕を見下ろす花火の熱さを

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「あっついね、ホントに」 「うん、人が多いから余計に暑いんだろうね」  浴衣を着た女子や、わざとらしく浴衣を着崩した男子。子供浴衣でぺちぺち歩く子供と、オモチャ片手に走り回って迷子を叱られる子供。微笑ましい距離感を保っているのは、中学生か高校生か。  行き交う人は様々なのにみんながみんな高揚していて、屋台の熱も相まって熱くならないと損みたいな雰囲気だ。  そっと隣に目を移したら、司が真剣な顔してほとんど水になったかき氷を口に運んでいる。 「…………司」 「んー?」 「たのしい?」 「……うん、もちろん」  伏し目がちで控えめに笑った司が、颯真は? と聞いてくれるから、なんの躊躇いもなく頷いて見せる。 「たのしいよ」  司と一緒ならどこでも、と付け足して笑えば、照れ屋な司がまるで決まり事みたいに真っ赤になるから可愛くて、──人目が多いから、やっぱり困る。こういう顔は二人きりの時だけにして欲しい、なんて思うのは心が狭い証拠だろうか。 「よし、行こっか」  わし、と司の頭を一撫でしてから、空になったかき氷の容器を近くにあったごみ袋に放り込んで、司に手を差し出す。  はにかんで笑った司は、もう何も言わずに真っ赤な顔のまま手を取ってくれるから。  その手を強く握ったら、そのまま抱き寄せたい衝動を堪えて人混みに向かって歩き出す。 「なんか食べたいのとか欲しいのあったら言ってね、止まるから」 「ん」  ありがと、とはにかむ笑顔に笑い返して、花火会場に向かった。  *****
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