1人が本棚に入れています
本棚に追加
軽快な鈴の音がなる。ガラス張りのドアが開かれ、脱兎が駆け込むかのごとく熱風が室内へと飛び込んできていた。
「いらっしゃいませ」
ドア口にはスーツを着た中年男性の姿。右手からはまだ新しそうなビジネスバッグをぶら下げている。
営業回りかとも思ったが、そのわりにスーツはよれきっており、表情にも覇気がない。
疑問は色々あれど、客人は客人である。机を拭いていた男性こと神楽坂は、客人を窓際のテーブルへと案内した。
「ご注文が決まりましたら御呼びください」
テーブルにメニューを置く。あくまで表向きは茶店である。甘味系統のものやドリンクの名称がメニューには書いてある。
ふと、立ち去ろうとした神楽坂に声がかけられる。
「あ、あの、すみません。この店は思い出を再現できる店、と聞いてやってきたのですが…」
やはりその系統だったか。と神楽坂は思う。
「御客様。お名前と御持ちしたものを出していただけますか? 京子!」
客人に対して用件を告げると共に、神楽坂は店の奥に向かって声をかけた。
ゴソゴソと音がした後、まだ年端もいかない幼女が姿を現す。目元を擦る仕草を見るに、サボって寝ていた様子。
「おいこらサボるな」
「ふ、ふぇ、おはようございましゅ、ものよみしゃん」
「寝惚けるな。今は昼だ。後でサボってた分減給な」
「ふへ…え、えぇぇ!そ、それだけは御勘弁を!」
減給と言う言葉に反応したらしく、客人がいるにも関わらず、京子は店内に響き渡る悲鳴を上げていた。
最初のコメントを投稿しよう!