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「いえ、このバッグは妻と娘が買ってくれた物なんです。部長昇進のお祝いと言うことで…」
一度小暮は口ごもる。が、何かを思ったようで、自嘲気味な笑顔を浮かべ、続きを語る。
「ただ、会社の資金繰りの問題で肩叩きに合いましてね…部長と言う肩書きをもらうまで二十五年。部長でいたのは二月でした…あまりにもあっという間に首を切られまして…妻に心配をかけたくないとこうしてスーツで外に出ていますが…行く当てもないんですよね。はは」
小暮からは、人生にさ迷い助けを求めている雰囲気がひしひしと伝わってきていた。
「そのバッグ、貸していただけますか?」
「え、あ、良いですけど…」
唐突な神楽坂の要望に驚いた小暮ではあったが、別に拒む理由もないらしい。素直にアルバムを仕舞ったバッグを神楽坂に手渡した。
「ふむ…少し中身を確認させていただいても良いですか?」
「…はぁ。構いませんが、今日そのカバンにはアルバムしか入れてきていないはずですが…」
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