神楽坂茶店

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 神楽坂は小暮の言動を無視して鞄を探っていた。側面にある小さなポケットを開けた時、違和感の正体を見つけた。 「それは……」  唖然と口を開ける小暮。どうやら彼も知らぬ間に鞄の中に入れられていたらしい。  鞄を手に取った瞬間、二つの光景が脳内をかすめた神楽坂。鞄そのものに込められた思いと、直接触れたわけではないのに伝わってくるもう一つのぼんやりとした光景。  正体は、今神楽坂が手に持っているお守りであった。淡い桜色の布製の袋。中には石でも入っているのだろうか。膨らみを帯びており、同じく布紐によって丁寧に口元が閉じられていた。  神楽坂は目を閉じ、再び物の世界へと入り込む。 ☆ 「どうしたのお母さん? 突然そんなもの作っちゃって」 「ゆ、由利……」  小暮の娘であろう。ショートカットの年頃の女性が口を開く。左手には暖かな感触。今回は何を言わずとも京子が小暮と神楽坂の光景のリンクをしてくれているようであった。それは、この光景に小暮の言葉が重なったことでも証明されていた。 「お父さん、ちょっと元気ないからね。元気になるお守りでも作ろうかと思って」 「確かに最近元気ないよね。一体どうしたんだろうね。せっかく部長に昇進出来たっていうのに」 「今不景気だからねぇ。お父さん首切られちゃったりとかしてるかもねぇ」 「えぇー? お母さん何のんきなこと言ってんの! 一大事じゃん!」  息を飲む音が聞こえた。図星な状況に小暮も何も言えず、ただこの先の光景を見守ることしかできそうにない様子であった。
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