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健吾のスティックがリズムを刻み、改めて先程のグラムロックから始める。聞いたばかりだから、客も幾らか覚えて、サイリウムの波がメロディに合わせて綺麗に揃って揺れた。
一曲目が終わると、健吾が得意のMCを始める。
「やあ、初めましての人も、今晩はの人も、盛り上がってるかー!?」
一万四千人が吠える。
「そんなんじゃ聞こえないぞー! 盛り上がってるかー!?」
咆哮が大きくなる。
「……オッケ」
軽く健吾が言い、客席から笑い声が上がった。健吾のMCで、掴みは上々だった。緊張はとけ、次々と曲を重ねていく。最後にバンドメンバーの紹介を済ませ、一人一人、技を披露する。
会場と俺たちの息が合えば、ハウスだろうが武道館だろうが、規模は関係なかった。
「ありがとう! これからも、WANTED with rewardを応援してくれ!」
楽器を置いてハケる俺たちに、サイリウムがブンブン振られる。
それに応えて、手を振りながらハケた先には、ベンジャミンがいた。思わず身構える俺に、ベンジャミンは優雅に一礼した。
「おめでとうございます、WANTED with rewardの皆さん。私(わたくし)どもの完敗です」
「でも、あんたらはMCのプロデュースでやるんだろ」
「さあ……どうでしょう。気紛れな方ですからね、まだお話はしていません。……アンコールがかかってますよ」
「ああ。……じゃあ、またどっかのステージで会おうぜ」
言うと、闇の中に仄かに光る蒼い瞳が、驚いたようにやや見開かれた後、笑みの形に細められた。
「ええ。その時まで、ご壮健に」
会場全体から上がるアンコールを受けて、俺たちはステージに戻った。
正史郎さんのアカペラから始まるミディアムバラードは、何回も同じフレーズが繰り返される。
健吾が「一緒に!」と言うと、会場全体が大合唱に染まった。
ギターのソロパートで、俺と京は間近に向かい合って演奏する。離れる際に、演奏に真剣な京に軽く唇を触れさせると、京はハッと顔を上げた後、真っ赤になって数瞬演奏を途切れさせた。
後で怒られるのは必至だったが、一万四千人の熱狂にまみれて、俺は我慢がきかなかった。
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