304人が本棚に入れています
本棚に追加
全ての演奏を終えてハケると、スクリーンのSeekerが、改めて俺たちのプロデュースを告げて、デビューライヴはお開きとなった。
楽屋に戻った俺たちは、興奮冷めやらず、口々に語る。
「これでずっと一緒ね、セイ!」
「あれ……デビュー出来て凄く嬉しいけど、バイトは辞めなくちゃなりませんよね?」
「大丈夫です、佐伯くん。もう人員は確保してあります」
「正史郎先輩、勝つ気満々だったんじゃないですかー!」
和やかに正史郎さん以外が笑った。
「真一先輩、打ち上げやりましょうよ! Seekerが用意してるかもしれないですし」
だが俺は、その言葉には賛同しなかった。済まなそうに言葉尻を下げ、
「悪りぃ。今夜だけは、京と二人で抜けさせて貰うわ。どうしても外せない用事があって。な、京」
「え……と、は、はい。すみません」
京はほんの一瞬だけで俺の目配せに気付き、調子を合わせた。マコが不平を唱える。
「えーっ! 何でよりによって今日なのよ! 用事って?」
だが先程の楽屋でのキスを見ていた健吾が察して、気を回してくれる。
「あ、そうですね。今日、前のバンドのヴォーカリストの命日だって、真一先輩言ってましたもんね……」
「あら、そうなの……」
「真っ先に報告してやりたくてな」
「それじゃ仕方ないわね」
しんみりとマコが大人しくなった。今の内に、と俺は京の肩を抱いて楽屋を出た。
「じゃあ、Seekerにも伝えといてくれ」
関係者口に停まっていた黒いワンボックスカーの使用許可をとり、家路を急ぐ。京が、不思議そうに訊いた。
「真一、前のバンドのヴォーカリストって、真一が殴った人じゃ……」
「ああ、あれは健吾の作り話だ」
「えっ……! じゃあ、何で帰るの?」
「今に分かる」
そうとだけ言って、京の口を封じてしまい、運転に集中した。
最初のコメントを投稿しよう!