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胸の下で何かが蠢く感触で、目が覚めた。だが寝起きの悪い俺は、緩く覚醒する無意識の中で、それを大切に抱き締めていた。
「京……」
呼び慣れたその名を口にし、ハッと意識が浮上する。
「真一……苦しい……っ」
気が付くと、昨夜(ゆうべ)愛し合ったままの体勢で、俺は京を抱き締めて眠っていた。京も、よくこんな姿勢で眠れたものだ。失神に近かったのかもしれない。俺が動くと、京が喘いだ。
「ぁっ、駄目、真一、抜いて……」
健康な印に勃ちあがっている俺が、京のイイ場所に当たっている。一瞬、このまま抱きたいと思ったが、失神するほど激しい行為が京に負担をかけている事を考えて、俺は仕方なく京の雌花から俺自身を引き抜いた。
「ぁんっ……」
京が色っぽく鳴く。長い睫毛には朝露のように涙が乗っていて、いっそう色香が漂っていた。
「京、悪かったな。身体、大丈夫か?」
俺は沸き上がる欲を堪えて、京の腰を擦さすった。
「ぁ、や、だってば……」
ますます京が顔を歪める。感じちまって困る、ってトコか。
理性を溶かすその表情に、すぐに俺は身を離した。だが京が、下から迎え入れるように手を伸ばす。
「真一……」
「ん?」
「おはようのキス」
昨日までとは違う、恥じらいのない柔らかな微笑みをたたえ、京が囁く。
一つになれた事で、気持ちが良い方向に変わったのだろう。眩しいその微笑に、俺も思わず微笑み返しながら啄むようにキスをした。
「おはよう、真一」
「ああ、京」
それから俺たちは、あまり動けない京を抱えて二人でシャワーを浴び、簡単な朝食を摂りながら色んな事を話した。
初めて京が引っ越してきた時の事、京からの告白、バンドを組もうと決めた夜。まだ付き合い始めて日は浅いが、本当に色んな事があった。
「俺の何処が良かったんだ?」
わざと意地悪く訊いてやる。すると案の定、京は照れ臭そうに答えを躊躇った。
この辺はまだウブだな。そう思いながら、ダイニングテーブルに片肘をついて頬を支え、我ながら人の悪い笑みを浮かべて京のカオを堪能する。
幾度も尋ねると、京は頬を上気させながら、観念したようにポツリポツリと語った。
「熱中症の俺を看病してくれた優しいトコとか……ライヴで格好良いトコとか……」
「とか?」
「……もう! 意地悪。全部だよ!」
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