ＲＹＯ

①

「工場…？　…あぁ、そうか。おまえの家、工場だったな」
「いや、いまはもう工場じゃないんだ。機械、全部取っ払ってるだろ？」
　何故、工場だったことを知っているのだろう？　一度でも来たことがあったか？…と、思っていると、志鷹凌は身を起こそうとしていた。が、やはり体が痛むらしい。
　明生は起きるのを手伝ってやろうとするが、どこに手を掛けても痛そうだったので、躊躇する。
「無理に起きないでも……あ、そうだ。救急車、呼ぼうか？」
「そんなもの、呼ばなくていい」
「だって──天井ぶち破って落ちてくるって、尋常じゃないだろ」
　幸い、重傷は負っていない様だが──と、そこではっと気づく。
　怪我の度合いが云々より、もっと真面目に不思議がった方がいいことがある。

　……何故、志鷹凌は、空から落下してきたのか？

　工場の上はおろか、周囲さえも、人間が転落してこれる様な高い建物はない。
　冗談ではなく本気で、あえて言うが、上空を飛んでいた飛行機から落ちたとも思えない。
　起きたこと自体はアニメの様でも、その原因までアニメみたいなことが、あってはならない。
　いま、自分が生きているこの場所は、まぎれもない現実の世界なのだから。