サイトウ

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サイトウの『サイ』の字は色々ある。 『斉』、『済』、『斎』、『齊』、『齋』、『才』、『西』・・・。 その中の『サイ』の字がたまたま同じだっただけのこと。 ただ、それだけのことなのに僕は嬉しかった。 「あの・・・斎藤(さいとう)さんが嫌でなければ『(あや)さん』とお呼びしてもいいですか?」 僕は遠慮がちにそう斎藤(さいとう)さんに訊ね、はにかんでいた。 僕のその問いに斎藤(さいとう)さんは僕以上にはにかんでコクリと頷いて『はい!』と返事を返してくれた。 そんな何でもない会話が酷く懐かしく感じられた。 それと同時に何かが胸の内に引っ掛かった。 「じゃあ、私は斎藤(さいとう)さんのことを『大翔(ひろと)さん』とお呼びしてもいいですか?」 大翔(ひろと)・・・。 それは僕の名前だ。 (あや)さんに名前を呼ばれた。 ただ、それだけのことなのに僕の心臓はドクンと高鳴った。 まるで恋でもしているかのように・・・。 「もちろん、いいよ」 僕はそう言い、笑んでいた。
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