本屋さんと液タブ

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 読子に言われて過去を振り返ると思い出すことが一つ。ちょうどネームを仕上げた日の晩、真島に「絵を描いている姿のキミとしたい」と言われて絵を描きながら行為をしたことがあった。  冷静に振り返るとあのときはずいぶん乱雑にペンタブを扱って汚してしまったし、その拍子で壊れても不思議はない。 「あ! あのときかも」  くれはは読子にそのことを話し、故障と判断した読子はくれはに自分の機材を貸し出した。  読子のツールを使って一晩で仕上げたくれは風呂にも入っておらず少し汗臭い。だがやりきった顔は自信に満ちているようだ。 「やれば出来るじゃない。基本諦めてばかりの私なんかよりよっぽどアンタは出来る子なんだから」  そんなくれはを読子は一晩、寝ずに眺めた。  この調子で異性交遊の悪循環が止まってくれないかと期待しつつ、恋人や自由という自分が諦めたモノをもつ友人を読子は羨んだ。  この日の読子はくれはにキツく当たった部分も多いが、それにうらやましいと言う感情から来る八つ当たりが混じっていたのは明白である。  本屋さんはこの本屋から出られない引きこもりである。  自分には訪れない夏の到来に読子は夜風で涙を拭った。
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