08

2/22
91人が本棚に入れています
本棚に追加
/122ページ
「あ、と、……」 『はい』 「……」 『……どちらさまですか』 「あ……え、と」  九月は覚悟を決めた。 「九月……です」 『え、九月? ほんと? 久しぶり!』  弾むような明るい声が返ってくる。 『元気? どうしてた? ってかどうしてこの番号知ってるの』 「ハガキ、届いて……」 『……あー! そうか、うん。妻が送ったやつだ。そういえば、メッセージ書けって言われて山ほど書かされたっけ』  九月は、ざ、と身体中の血がひくのを感じた。  踏み外した。  メッセージは九月に対して書かれたものではなかった。おそらく九月が保科に一度だけ出した手紙が、何かの間違いでリストにまぎれこんだ。そのせいで、招待状や新居を知らせるハガキが、九月のもとに届いた。 「式では声をかけられなかったから、元気かなって思って、ハガキありがとうそれじゃ……」  激しい後悔に襲われながら、それでも保科の電話ごしの息遣いを、嬉しいと思ってしまった。  何を期待したのだ。何か期待したのだ。  通話を終わらせなければ。  早く、「電話をかけた自分」を消去しなければ。自分が保科に未練があるという事実を、完全に消し去らねばならない。  今なら間に合う。まだ、間に合うはずだった。     
/122ページ

最初のコメントを投稿しよう!