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 タクシーに乗りこむために傘をたたんだそのわずか数秒で、髪もスーツも台無しになってしまった。  それでもなんとか後部座席に身体を押しこめる。しかし運転手に行き先を告げる、ただそれだけのことができず、九月は途方に暮れた。  金さえ払えば、どこへだって行ける。なのに、行きたい場所も帰りたい場所も思いつかないのだ。  海からの強風で、雨粒は銃弾のようにバチバチと窓やドアを打ちつけている。  タクシーはシェルターのように九月を守っていて、ずっとこの場で留まり続けたい、何も決断せずに永遠に閉じこめられてしまいたいという思いがせりあがってくる。 「結構ストップしてるみたいですね」  運転手が、ハンドルに手をかけ、前を向いたままの姿勢で言った。  九月が何も言わないのは、交通機関の乱れのためだと思ったようだった。運転手は一度ミラー越しに九月を見て、また前方に視線を戻す。そしてじっと指示を待つ。  この日海辺の小さなホテルで行われたウェディングは、昼間は親族だけの食事会、夕方からは友人を招いての二次会という構成で、本来ならば、たくさんのキャンドルを使用したロマンティックなガーデンパーティーになる予定だった。     
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