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『あ、待って。今これからヒマ?』 「うん、特に何もないよ」  心の中の強い決意に反し、すぐに答えてしまう。できるだけ感じよく、楽しそうな声が出るように。そう意識しながら。 『え、だったら今からちょっと出てこれないかな? これから飲みに行こうと思ってて。無理ならいいけど』 「行けるよ。どこに行こうか」  心臓が、さっきから、やけにうるさい。 『恵比寿とかどう? 携帯教えて』  番号もメアドもあの頃のままだ。そう叫びたかったが、こらえた。 「いいよ、今から言う」  九月は熱にうかされたように、何を着ていくべきかと思った。まるで初デートをするティーネイジャーのようだった。一つのしくじりも許されないと思った。  大洋と一緒に処分したものの中に、着たいものがあった。捨てなければよかったと思った。  結局いいのかどうかもよくわからない恰好をして、それでも上質な靴を履き、指定された場所に行った。  大洋に悪いなどとは、不思議と感じなかった。会うだけなのだ。会って確かめるのだ。ひょっとして保科は醜くなっているかもしれない。そうすれば、心の中で笑ってやる。笑ってやるのだ。  指定された場所は、都内に何店舗もある英国式スタンディングバーだった。     
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