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 保科を失って、しばらくしたある日、街で知らない男に呼び止められた。男のなれなれしい態度に、あの日ヤッた男のうちの一人だと思い出した。  保科のことを尋ねると、「消えたね。なんか国内にいないらしいよ」と男は言った。  もっと情報が欲しくて誘われるままホテルに行き、セックスした。  ことが終わると男は勝手にベラベラしゃべった。数年前、結構な騒ぎになったある事件について。  舞台となったその学校が、都内屈指の有名私立校だったこと。事件に関係した男子生徒数名の親が、誰もが知っている著名人だったということ。すべてがセンセーショナルで、マスコミとネット住民の格好の餌食となり、今でも実名や顔写真がネットの海を漂っている。 「ほら、これ、そん時のAくんとBくん」  ご丁寧に、画像を見せてくる。キョウイチの親と保科の親の名前を聞かされる。二人とも聞き覚えのある有名人の名前だった。一人はワイドショーなどでコメントを求められるようなどこかの大学の教授で、一人はマイナーな女優だ。  九月は事件の概要をかすかに思い出した。かといってそれがあの二人とどうしてもつながらなかった。十代の保科とキョウイチとその他の顔。  ブラウザが表示する高校生の保科は、なぜ、自分がここに? とでもいいたげなよるべない顔をしていて、すでに不穏なほど美しかった。     
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