07

1/16
前へ
/122ページ
次へ

07

 大洋が九月のもとから完全に去ってしまうと、九月の生活は、働いて、買い物して、適当に遊び、それ以外は保科について考える日々にまた逆戻りした。  以前と違うのは、時々大洋ことが頭に浮かんでしまうことだった。  自慰をしていると、混乱してくる。いったいどちらのことを考えてしているか、わからない。直近の記憶が大洋の指なのだから、しょうがなかった。九月は大洋が自分に与えた感覚を追いながら、保科のことを考え続ける。  時々笑ってしまった。笑いながら時々泣いて、また自慰をする。  あのすごく寒かった日のことを、繰り返し思った。記憶の中の保科は、薄いシャツ一枚で路上に微笑んでいる。  九月が街で大洋を偶然にも見かけたのは、系列店のセールで応援に行った時のことだった。  表参道の交差点付近でチラシを配布していると、信号を渡る人々の中に、ひときわ華やかな若者の集団がいて、そこに大洋を見つけた。  数か月ぶりの姿だった。  九月の知らない顔をしていた。  九月の知っている大洋は、子どもっぽく、失恋にうちひしがれており、九月の身体を身勝手に扱う。     
/122ページ

最初のコメントを投稿しよう!

92人が本棚に入れています
本棚に追加