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 ところが街を歩く大洋は、自信に満ち溢れ、前方には未来しかない。その姿には、何の穢れもない。  大洋は恐らく、保科を乗り越えたのだ。九月を踏み台にして、次へと向かっているのだ。  九月は、大洋にまったく気がついていないという態度を貫いた。目を合わせず、早く通りすぎてくれ、と祈る。  大洋が、新しい世界に踏み出すのなら、そんな素晴らしいことはない。たぶん見たこともないような明るい世界の住人になり、保科のことも自分のことも、苦い思い出にしてしまうのだ。  もしくはすべてなかったこととして忘却される。  それでいい。  ……嘘だ。そんなことカケラも思わない。  ずっと保科に対する執着を捨てきれない自分と、同じレベルでいてほしかった。  三日間限定のセールは大盛況で、九月は連日駆けずり回り、へとへとに疲れ、重い足どりでやっと帰宅した。そこで改めて自分の部屋を眺めた。ゴミだめのようだと思った。  そこにあるのは、9割が身に着けるもので、一人の人間の持ちものとしては、どう考えても過剰すぎる。  急激にあらゆるものが汚らしく見えて、深夜も近いというのに衝動的に片付けたくなった。     
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