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 何一つはじまらなかった。ただ一方的に好きになり、少しでも何かおこぼれをくれないかと、いじましく待つ日々だった。心も身体もすべて捧げた。それでも本当に欲しいものはくれなかった。 「俺の知ってる保科と違う。どっちが本当の保科なんだろ」  大洋は根気よく九月の話を聞いた後で、ぽつりと感想を言った。  大洋の知っている保科は、いつも穏やかで、わがままを聞いてくれるような存在だったと言う。 「……でも、もう全部終わったことなんだよな。今さら保科が本当はどんな奴だったか、なんて、どうでもよくね?」  妙にすっきりした顔で言われる。その言葉がすっとはいってくる。 「昼間あんたの顔みたら、ぶあーってなって」  子どもっぽい言い方。 「……もうなんか普通に、周囲に合わせて何でもないみたいに笑ってんの、疲れた……」  口調は幼かったが、声は疲弊していた。  急激に脳と身体が重くなる。大洋の体温に触れているうちに、すとんと睡魔に襲われた。それはこれまで経験したことのないほど唐突な眠りだった。 「ちょっとさー、さすがに片付けようぜ。最初この部屋に来た時から、どうにかしたくてたまんなかったんだ」  翌日、大洋は、服に埋もれて眠る九月を掘りおこすと、きっぱりと言った。  大洋に言われなくてもそのつもりだったが、言い訳できないほど、部屋はひどかった。     
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