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「あのさ、あれ絶対やばい雲」
大洋は、気まずい空気をふりきるように立ちあがりながら言った。ゴロゴロと遠雷が聞こえ、空が暗くなってゆく。他の店も客も空模様を気にし、店じまいをはじめている。
またたく間に、大粒の雨がコンクリに黒いしみを作る。
スコールだった。
九月と大洋は空っぽのスーツケースに敷物や他の荷物をつめこむ。
「とりあえず屋根のあるとこ行こう。あんたの部屋とか」
大洋がどさくさにまぎれて、怒鳴るように言う。九月は声を張って言い返した。
「それ『とりあえず』、じゃ全然ないだろ、普通に『帰る』ってことだろ?」
たたきつけるような雨は、二人を容赦なく濡らした。視界が悪くなるほどの大雨に笑いがこみあげる。
いつかの日と同じだったが、まるで違っていた。雨に降られるということが、こんなに愉快なことだとは知らなかった。
「ひっで。絞れそう」
「タオル……てか、シャワー?」
やっとの思いで九月の部屋の玄関に飛びこむ。
あまりのひどさに、何を言ってもゲラゲラ笑ってしまった。
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