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 九月は、派手なくしゃみをする大洋に笑いころげながら、スニーカーを脱ごうとするが、ぐっしょりと濡れて足にまとわりつき、なかなか脱げない。それもまたなぜかおかしくて、笑いながら靴ひもを苦心してほどく。ようやくとけて、ほっとし、笑いの余韻でよろけながら片足を抜く。 「……と、」  狭い玄関で、大洋が九月の腕をとって支えた。九月は条件反射で「ありがとう」と言いかけ、大洋を見上げた。  笑っていたはずの大洋が、まったく笑っていなかった。大洋の髪からは、ぼとぼとと水滴がしたたっている。あの日もそうだった。 「初めて会った時、あんた……なんか……まるで、きれいな死神みたいだった」 「……」 「さみしそうで、かなしそうで、白い顔で、黒い服着て、タクシーに乗りこんで、」  大洋は九月の二の腕を掴む。まるで逃げられることを恐れているかのような、強い力だった。タクシーの中で見たのと同じ目をしていた。ただ涙はなく、雨のみが大洋の頬を濡らしていた。 「次会った時も、人間じゃないみたいだった。強風の中で、不機嫌そうで、冷たそうで、ぽきんて折れそうに細くて」  九月は、目を合わせられなかった。いろんな感情が胸の中を交錯するのだが、言葉がみつからないのだ。 「……保科に似てるって思ったから、つい追いかけた……でもすぐ怒るし、自分勝手だし、セックス中はうわの空だし、演技はいるし、俺の事あからさまにバカにしてるし、全然違った」 「……そんな、ひどくな」 「ひどいよ」     
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