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 大洋は九月の言葉を遮って、まっすぐに言った。 「九月はひどい奴だ」  九月は自分より背の高い大洋の濡れた頬に、そっと手を伸ばして触れた。 「……お前なんか、びーびー泣いるし、まだ金返さないし」  自分の言い方に、棘がない。それどころか、べたべたに甘い。 「返したら、会う口実なくなるじゃん」  触れた頬、とても緊張している。それを和らげたいと、両手で大洋の顔を包む。勝手に手が動いた。 「それ、嘘だろう」 「嘘じゃないし」  大洋は、九月の手の中で一度目を伏せる。それから再度九月を見た。今度は九月が目を伏せる番だった。   九月は指を引っ込めた。だめだ、と思った。しかし、その指を大洋が掴んで逃がさなかった。 「……その触り方、好きだ。でも、今日、他の奴にもそうやってた」 「……シャワーしないと」  そう九月が言うと、「一緒にとか」と大洋は言った。手をぎゅっと握るやり方が、断られる前提みたいな感じだったから、九月はつい、その手を握り返した。 「いいよ一緒でも」  大洋は大げさに驚く身振りをする。 「九月が優しい」     
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