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そのまま息を殺すようにじっとしていると、大洋はまた深く寝息をたて始めたので、その固く重い腕からいったん逃れた。そして、またしばらく大洋を観察する。
でっかい子どもみたいだ。
最初はすごくミステリアスに見えた。それこそ九月にとっても大洋は、死神そのものに見えて、この世ではない場所に連れ去ってくれる救世主のように思えた。
その頑丈な大きな身体に自分からくっついてみる。全体的に体温が高い。安心感にくらくらする。
信じられない。こんなのは、実体がない、あてにならない。
でも、少しだけなら、もらってもいいかもしれない。どうせいつか終わるのだ。それなら、少しだけ。
「大洋!」
「うん?」
「これ、」
鍵を渡す。
「今日遅くなるから」
「あ、悪い、ありがと。……へへ」
ただ鍵を渡しただけなのに、だらしなく笑う大洋を九月が訝しげに見ると、大洋はますます締まらない顔で言った。
「九月、かわいー」
その口をどうやって黙らせようかと思って、黙りこむと、ふいうちでキスされた。以前の九月ならぞっとするような朝の一コマだ。関係は、あれからずるずると続いている。
大洋が九月の部屋に泊まることも多い。口げんかは相変わらずだったが、もはやケンカというよりじゃれあいだ。大洋が九月の毒舌にほとんど反応せず、にやにやするため、ケンカが成立しないのだ。九月はふと、思いたって言った。
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