07

14/16
91人が本棚に入れています
本棚に追加
/122ページ
 そのまま息を殺すようにじっとしていると、大洋はまた深く寝息をたて始めたので、その固く重い腕からいったん逃れた。そして、またしばらく大洋を観察する。  でっかい子どもみたいだ。  最初はすごくミステリアスに見えた。それこそ九月にとっても大洋は、死神そのものに見えて、この世ではない場所に連れ去ってくれる救世主のように思えた。  その頑丈な大きな身体に自分からくっついてみる。全体的に体温が高い。安心感にくらくらする。  信じられない。こんなのは、実体がない、あてにならない。  でも、少しだけなら、もらってもいいかもしれない。どうせいつか終わるのだ。それなら、少しだけ。 「大洋!」 「うん?」 「これ、」  鍵を渡す。 「今日遅くなるから」 「あ、悪い、ありがと。……へへ」  ただ鍵を渡しただけなのに、だらしなく笑う大洋を九月が訝しげに見ると、大洋はますます締まらない顔で言った。 「九月、かわいー」  その口をどうやって黙らせようかと思って、黙りこむと、ふいうちでキスされた。以前の九月ならぞっとするような朝の一コマだ。関係は、あれからずるずると続いている。  大洋が九月の部屋に泊まることも多い。口げんかは相変わらずだったが、もはやケンカというよりじゃれあいだ。大洋が九月の毒舌にほとんど反応せず、にやにやするため、ケンカが成立しないのだ。九月はふと、思いたって言った。     
/122ページ

最初のコメントを投稿しよう!