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「大洋、前にぼくの年知りたがってたよな?」
「え、うん」
「今年三十」
「……誰が? え……? て、え? マジ……?」
大洋が目を丸くして驚いているので、少し溜飲が下がる。
「そりゃ……ってか、え、本当に? 三十? 九つも上? 詐欺じゃん、それ。その顔で?」
大洋はしばらく驚いていたが、でもさして気にした様子もなく大学へ行った。九月はそれを見送ってから、仕事へ向かう。
信号待ちでショーウィンドウのガラスに映った自分が目に入った。悪くなかった。
抜けのあるゆるいファッションで、表情が穏やかだ。カラコンもしていない。全然「あり」だ。
大洋といると、とてもリラックスする。まったく緊張しない。九月がそう言うと、向こうもそうだと言う。
「九月といるとなんか、かっこつける必要がないからすげえ楽。保科ん時は、男と付き合うの初めてっての差し引いても、いつも相当緊張してた」
「単に出会いが最悪だからだろ」
九月が言うと、大洋は「それ自分が言う?」と笑った。
「だってお前、号泣してたし」
「会ったばっかなのに、俺のことたらしてサルみたいにヤりまくったの誰?」
大洋が九月の腰に腕をまわした。引き寄せられながら、九月もうっかり笑ってしまう。
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