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近づいてくる大洋の顔に一瞬見惚れる。
年下に甘えられるのはうっとうしいだけと思っていたが、大洋との関係は悪くない。
こうしていると様々なことが、どんどん遠ざかってゆくのがわかる。あんな出口のない地獄みたいな日々も、前世にあった出来事のように感じる。
ゴリゴリと生きたまま骨を削られるような、そんなものは恋愛とは呼べない。本当の恋愛は、もっと穏やかで優しくて、ハッピーで、人を温めるのだ。あの時はそれがわからなかった。
本来自分はまともな種類の人間で、あの頃あんな風になってしまったのは、ただ保科の魔力にあてられてしまっただけ。
九月は、そう思える自分が、一段成長したように思えた。
しかしそう思うこと自体が、大きな間違いだと気づかされたのは、そんな風に悟った気分になって間もない日のことだった。
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