3人が本棚に入れています
本棚に追加
指名が出来るらしい。
ぼくは、一人だけ黒髪で、唯一髪を巻いていないストレートの人を「いいなぁ~、あのひと」目星を付けていたので、迷わずその人を指名した。
源氏名(げんじな)は、リキヤさんと言った。
どこにもヘルプに入らず、わたしがお店に居る間、ずーっとついててくれた。
お話も上手だった。
「香水……してる? 当ててみようかァ?」
「分かりますぅ?」
「うん。馬並みに鼻が利くから」
(馬並み……?)犬並みでなく?
「当ててみてください」
ぼくがそう訊くと「うーん……」と考え込んでから、天使のような笑顔で、
「シャネルのNO.5……かな?」
「ぶぶーっ!」
「ぶぶー?? えっと……二十四歳のOLさん、だよね?」
(しーーーまったぁぁぁぁ!)
先輩たちから口裏を合わせて、未成年だとバレないようにと注意を受けていたので、ぼくは、首根っこ掴まれ野良猫のように摘み出されるのを危惧して考えた設定は──。
・岩手県から上京して五年。
田舎はみんな結婚が早い。
最近は親からの電話も「いいひといないのー?」から、二十代も半ばに差し掛かると、最後に電話で決まってこう言われるの「お母さん、早く孫が見たいわぁ……」
だけど今はお仕事のほうが楽しい。
恋人は「お仕事」すでに結婚しちゃってまーす。
あっ、でも! でも。
彼氏は一応いまーす。
などと飼い猫のポチをブログにアップする、至ってどこにでもいる普通の女の子(女の子~??)
丸の内のパンツスーツ系OL「ルーシー・夏っつん・オータムフォール」
という偽名で、八歳も年齢を詐称した上で、落ち着いたお姉さんという役柄を演じ正体を隠していたのだ。
「ぶぶブルガリじゃないですよォー。違います違います」
(なんとか誤魔化せたか?)
「いや……うん、シャネルの五番? って聞いたんだけどォ」
「おしいッ! 19番です」
「あ……そう。あの。
こんなこと言うのは年上に失礼なんだけど……本当に」
年齢を訊かれそうな雰囲気……。
ぼくは”一緒に来た、ぼくを毎日虐めてる先輩OL”という設定の先輩たちを指差して、矛先を変えた。
最初のコメントを投稿しよう!