回想……回送……改装

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 リキヤさんの容姿や、類稀な自虐ジョークや、センスの良いトーク術。  他にも語りつくせない、ある種”雰囲気”が、ぼくの心を圧倒した。  その立ち居振る舞いを見ても、リキヤさんがこのお店のナンバー1なのは疑いようのない事実──だのに、こんな一見さんのぼくに、店先まで見送りに来てくれる──さらっと見せる心遣い。 (かなわないや……)  リキヤさんが改まって言った。 「あ、今更だけど、わたし……ハーフだから」  ぼくにはもう、そんなことはどうでもよくなっていた。  だから毅然とした態度でこう答えた。 「ええ、分かっています」 「知ってたんだァァ!?」 (もちろん……だよ) 「はい、見れば分かります。お国は?」  すると驚いた顔で、リキヤさんは、ぼくの顔を覗き込むように二度見した。 「は? じゃなくて(なっつん??)」  ぼくもそうだから……。  *  会計をする先輩たちの「ずびばぜぇぇぇーン! なんでもしますからぁぁ~。必ず払うので分割で……」懇願するような鼻声を聞きながら、ぼくはお店を出た。  しばらくまっていた。  だけど、いつまで経っても先輩たちが出てくる気配がないので、先に帰ろうかと思っていた矢先。  リキヤさんがお店の外まで出てきた、  そしてぼくに近づき、こう言った。 「もうここへは来ちゃダメだよ?」  ぼくは悲しくなった。  どうしてそんなことを言うんだろう。 「どうしてですか?」 「だってここ……どういうお店か、分かってるでしょ?」 「お金なら!」つい大きな声を出してしまった。  そんなぼくを、リキヤさんはもの言いたげに見つめるばかり。 「お金なら……小学校の時に、お母さんに無断で使われた、六年分のお年玉を返してもらったら、たっくさんありますし!」  なのに、さっきお店の中で見せた屈託のなさは影を潜め、冷静な口調でぼくにこう諭した。 「それだけの話じゃないんだよね……」  そしてリキヤさんは、寂しそうに、それでいて自嘲気味に嗤った。  自分を嗤ったのだ。  だけど…………。  ぼくはもうこの時──。
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