Chapter1 日常

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冷凍庫のスペシャルカップが消えた。 犯人は間違いなく目の前のこの女。 だが証拠がない。非常にもどかしいことだが、これではこの女を追い詰められない。つまり文字通り指をくわえてゴミ箱の中のスペシャルカップ期間限定パイナップル味のゴミを眺めるしかない。 「くそっ!!」 苛立って、ゴミ箱を中身がこぼれない程度に蹴飛ばす。 「...柚葉、ものを蹴るのはよくない」 「あああああ!!」 わかっている。わかってはいるが、スペシャルカップ期間限定パイナップル味は大人気商品で、朝などでないとすぐに売れてしまって買うことができない。たまたま朝コンビニ...エイトトゥエルブに寄った時、ラスト1個だったのを奪取して、ほくほく顔でわざわざそれを置きに家に戻って冷蔵庫に収納した。 それが疲れて帰ってきたらなくなっているのだ。ゴミ箱を蹴りたくもなる。 「アイス1個でものを蹴るなんて小学生以下」 「すげえ正論だけど原因作ったお前が言うな!お前があああ!!!」 俺のスペシャルカップをペロリと食い荒らした目の前の害獣は、飄々として言ってのける。 「今度という今度は絶対許さねえからな!だいたいお前この間も俺のバリバリ君勝手に食っただろうが!!」「だったら私のぶんまで買ってきてくれればいいじゃん」 「スペシャルカップは1個だったんだよ!!つーかお前自分で買いに行けばいいだろ!?」 「だってお小遣い月2000円しかないし」 「お前別に出掛けないんだから十分だろうが!!なに文句言ってんだ!」 「じゃあ次から私のぶんまでアイスね」 「じゃあってなんだよ!お前今までの話のどこを纏めたらじゃあになるんだよ!」 「うるさいなぁ...」 こいつは相変わらず表情少なく淡々と返してくる。恨み辛みを込めて睨みつけ、少し冷静さを取り戻す。 「つーかさ、こんなことしてる場合じゃないよな...」 「ん。全くもって。アイス1個でごちゃごちゃ言うのってどうなの?」 「お前のせいだけどな!!...まあ、実際アイス1個で騒いでる場合じゃないんだよな...」 「平和ボケしすぎ」 目の前の女...形式上では俺の妹に当たる「勿忘瑠璃(なしば るり)」は無表情の中にも真剣な感情を持ってこちらを睨む。 「私たちの“目的”を忘れないように...ね」 瑠璃はそう呟き、踵をかえして部屋に帰っていった。
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