第一章『謎の転校生』

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すると、今まで黙っていたマスターが穏やかな顔になった。 「いやいや、私の方こそすまなかった。ついニンゲンを見ると現金を奪いたくなってしまう衝動に駆られるんだ。千尋(ちひろ)も落ち着きなさい。この子たちもしっかり謝ってくれたことだしなんだかすっきりしたよ」 このクマは笑顔でこわいことを言うタイプのクマだった。けれども許してもらえて奇下(きげ)たちも一安心といったところだ。 「おじいちゃんが許すんなら私は何も言わないわ。あんたたちも今度からは気をつけなさいよ」 千尋も落ち着いたようだ。しかしこんな性格のクマに育てられた千尋にはなにか性格に欠点があるのではないかと奇下は少し不安になった。 「そうだ。大きい声を出してしまったお詫びと言ってはなんだが、これ」 そういうとクマはエプロンのポケットからなにかのチケットを取り出した。 「今日店に来た営業の人が置いて行ったんだ。隣町で明日から開かれる『世界大宝石展』の招待券だ。ちょうど5枚もらったから千尋も一緒に休みに入ったら行ってきなさい」 と言って一人一枚ずつチケットを配った。このタイミングでクマはロボットに思いっきりパンチをした。 ぐわぁーーーん、と店内に鉄板を殴ったような音が響く。 「わぁ! このクマ、凶暴だ!」 たまたま店の外を通りかかった老人はそういうと駄菓子屋に入っていった。「ありがとうおじいちゃん。でも、私こいつらと同じクラスってだけで実はそんなに仲がいいわけじゃないの」 千尋はまさかのカミングアウトをした。 「ズッコーーーーー! それは言わない約束じゃなーい!!」 先ほどの老人が駄菓子屋から出てくるなりずっこけて喚きだした。その瞬間近くをパトロール中だった警察官に取り押さえられ、どこかへ連れて行かれた。 「まぁそう言わずに、この機会に仲良くなりなさい。友達は多い方がいいに決まっている」 クマに説得され渋々行くことになった千尋。 「んじゃあ、早速明日隣町にいこう!」 こうして5人は次の日隣町の世界大宝石展に繰り出すことにした。
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