第二章『受験戦争前の戦争』

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自分で聞いたくせに返事は上の空だった。アドレスを交換した?ってことは奇下くんから?大星さんから教えてって言うのも想像できない。おそらく奇下くんがニヤニヤしながら下心丸出しで聞いたんだ!そんなことを考えているとイライラしてきた。もう一度奇下くんと六郎くんの方を見る。たしかにさっきと変わらずに笑っているのだが、その笑顔はいやらしく見えてきてしまった。 「もう、知らない」 沖野ちゃんがいるのに私は、半べそをかきながら机に突っ伏してしまった。 帰り道。夏も幾分終わりに近づいているこの時期、夕方は先週よりもやや涼しい風が吹いているような気がしてきた。と言ってもまだ暑いことに変わりがないが、それでもたまに吹く風に秋のにおいを感じる。 「ただいまー」 今日はガリレオールにも寄らずにまっすぐ帰宅した。僕が毎日遊びほうけているような主人公ではないということを証明するために今日は早い帰宅なのだ。いや嘘なのだ。なんだか放課後から千尋がやけに冷たかったからガリレオールに行こうと言い出せず、そのまま帰ってきたのだった。僕なんかしたかな? 「おかえりー!」 居間の方から魅子が一目散に飛び出してくる。そして僕に抱き付こうとするので、それは阻止する。
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