崩壊

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 敦は露出した白い柔肌を隠す様に、 脱がせた上着を優しくかけ、 そっと抱き寄せると耳元で小さく囁いた。 「DVか……?」 恭子の体には、 無数のアザが痛々しく残り、 その全ての傷は、外観からは見えにくい 衣服で隠れる部分に集中していた悪意あるもの…… 「コン!コン!失礼するよ」 「あっ、吉田編集長」 「おおっ、感心だな。 自ら綴った作品を読み返し、 次作の構想を練っているんだろう」 「敦と恭子、 若き頃、結婚を誓い愛し合った二人の引き裂かれた関係、 時を超え運命の再会を果たした二人が選択したW不倫! 元彼女を救うため使命感に燃える男は、 DV夫を刺殺、偶然にもその現場を最愛の娘に目撃され、大切にしていた本当の家族を捨て、恭子と敦の逃亡生活が始まる。 逃げても、逃げても、 永遠に続く、終わりなき逃亡―― 奥様方に大好評だ。 喜べよ! タイトル 『地平線の彼方』 増刷が決まったぞ!」  突然現れた編集長が投げかけた言葉は、 以前綴った作品の好調な販売進捗であった。 「あっ、ありがとうございます」 自分の手がけた作品が世に出るなんて、 それを評価される事への達成感が、 雅治の心を熱くさせていた。 「でっ、相談なんだがな……」 「えっ?」 「この作品はもう、過ぎた過去だ。 同じように情熱的で、 周囲の反対や障害、現実離れした禁じられた恋愛、決して起こる事は無いが、 起こる事を信じ、 そして待ちわびる女性達がたくさんいる」  編集長は遠回しに何かを伝えていた。 「もっと熱く、甘く、ほろ苦い恋愛…… この作品の反響のお陰で、 次作に対する、 神城先生のハードルが上がった訳だ。 つまりだな……、 次ぎを書かなきゃいけないって事だ」
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