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第二十章 祝福
振り向いた向こうで誰かが呼んでいる気がした。
兄だ。
だけどいつもの強い彼ではない、どうしてそんなに弱っているの。そして彼はまた僕を呼ぶ。
僕を必要としてくれているんですか? 秋生さん。
僕は帰らないと。
彼が望んでくれるなら僕は生きるから。
「雫」
目を開けると赤く滲んだ目をして兄が僕を見つめていた。
兄は僕の頬に手を伸ばすと、愛おしいという代わりにその手で僕を確認する。
「馬鹿、こんな長い間起きなかったら心配するだろう……」
「秋生さん、ごめんなさい」
長い眠りから覚めた僕はおはようの代わりに兄にキスをした。
そしてその瞬間に、僕は自らの変化に気が付いたのだ。
「秋生……さん?」
「番だよ、俺達はもう死ぬまで一緒なんだ」
最早アルファだとか、オメガだとか兄弟と言うことすら関係なかった。
お揃いのネックレスが輝いている、もう一人じゃない、孤独ではないと。
結ばれた番、僕と彼をつなぐのは心からの絆。
手を握り、確認した兄の体温が優しくて、僕は泣いてしまいそうだった。
「お前は俺のもので俺はお前のもの、誓おうかこの夜明けに」
涙が止まらない、全てを乗り越えて僕たちはこれから生きてゆく。生まれてきた価値がここにある。
「誓います、秋生さん。あなたに会えて本当によかった」
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