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待ちに待った兄の退院の日、面会時間の少し前に病院へ。
見送りに来てくれた生馬さんが笑顔で立っている。
「雫」
振り向くと兄が服を着替えて待っていた。生馬さんに気が付いて軽く会釈する。生馬さんも笑顔で返した。今日はなんて良い日だろう、僕の周りは笑顔で溢れている。
「帰ろうか、雫」
そして兄は僕の手をつなぐ。胸元からはおそろいのネックレスがのぞく、日常が帰って来る。
「秋生さん……」
繋いだ兄の手が温かかった。それはいま生きてるって証拠。
愛すると言う感情は、ときにその危機をもくつがえす。あなたに会えて本当に良かった。
その日の深夜、兄と二人ベッドの上で。兄の腹部の傷は治ったとは言うものの、まだ赤く痛々しくて気になってしまう。
「大丈夫だよ、雫。もう痛くないから」
「でも……あ……ん……ッ、秋生さん」
「動くよ、おいで」
兄が僕を正面から抱きしめる、首筋の温もり、それはなんて愛おしい。
「動くよ、雫」
「あ……」
その温もりはあまりに久しぶり過ぎて、僕は涙が止まらなかった。でも、いつまで兄は僕をこうして抱いてくれるのだろう。
兄は音を立てて出し挿れを繰り返す。お願いもっと奥の奥まで、そのまま繋がって永遠に離れないように。
「う……ん、秋生さん……!」
涙の向こう、滲む彼。ああ、愛おしくてたまらない触れ合う体温も全て全て。
生と死の瀬戸際を越えて、今、兄の手を離したくない。僕の中で兄はこの世で唯一の存在だったから。
「雫、なあ、俺達……」
情事の最中、彼は僕に甘く囁く。でもそれは、聞いてはいけない言葉だった。
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