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第十九章 眠り
「雫、起きないか?」
翌朝、出勤前。あれから俺のベッドで寝てしまった雫に何度声をかけるも目を覚ます様子がない。疲れているのだろうか、出勤時間は迫っている。このまま寝かして行こうか、多分昼前には起きるだろう。
「行って来るよ、雫」
結局、声をかけても反応はなかった。それから時は淡々と過ぎ、昼休みこの時間になっても何の反応もない携帯電話。俺はどうしても雫が気になって職場から携帯に電話をかける。
「どうしてでないんだよ……」
何度も呼び出し音は鳴るけれど、いつまで経っても雫が出ない。まだ寝ているのか? こんな時間まで?
不穏な心は耐えがたく、今すぐにでも帰宅したい気分。でも、仕事が。何度目かの留守番電話に起きたら連絡を寄越すよう、切実なメッセージを吹き込み、携帯をしまう。
今日は早く帰ろう、無事な雫の顔が見たかった。
◇
夕暮れの頃、帰路を急ぐ。結局あれからも雫からは連絡すらなく、幾度となくかけた電話はいつも留守電で同じメッセージが流れるだけ。辿りついた自宅マンションを見上げる。この時間ですら明かりのついている様子がなかった。
「雫!」
鍵を開けて駆け込んだ。名前を呼びながら室内へ、俺の部屋のベッドでは、朝と同じ姿で眠っている雫がいた。
「雫、起きろよ」
目を開けない……。
「なんで起きないんだ」
揺すってもまだ、目を開けない……。
「雫!」
半ば怒鳴り声を出しても。
幾度となくその名を繰り返すも、雫は目覚めなかった。昨日の体温と俺を感じた雫の顔を思い出す。愛は交し合ったはずだった。雫は俺を見捨てるのか?
本当に守られているのは俺じゃない、雫のほうだった。
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