第十九章 眠り

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 雫は優しく強い心を持っている。オメガに生まれて虐げられても、俺のそばにいてくれるその心は。 「永遠の別れなんて許さないぞ、雫……!」  ◇   「うーん、眠ってるだけ、としか言いようがないね」  往診を頼んだ三鷹医師は困った顔をしてそう言った。そんな、脈も呼吸もどこも何ともないのにどうして起きないんだ。丸一日以上寝たきりで、なんで。 「もしこれ以上起きないのであれば大きな病院に連れて行ったほうがいいよ」     三鷹医師の口数は少なく、彼の帰った家で再び雫と二人きりになる。 「雫、何があったんだ……?」  そうしてしばらく眠ったままの雫の顔を眺めていたら、昔のことを思い出した。  ◇ 「……こんな時間に何やってるんだ?」 「秋生さん」  深夜2時、雫が一人縁側に腰かけて夜空を眺めている。だけど今夜は月すらも見えない夜。こんな時間に、なんで。   「高校生が起きてる時間じゃ無いよ。明日も学校だろう? 寝なさい」 「んー、もう少ししたら寝る 」  雫の隣に腰かけた、少し身長が伸びた気がする。   「最近は体調はどうだ? 無理してないか」 「ふふ、優しいね、秋生さん。なんとかやってるよ、大丈夫」  そうは言っても先日もまた傷を作って帰ってきた。ふらついて階段から落ちたって。   「寝不足なのも良くないぞ、ちゃんと休まないと」 「眠れないんだ、寝てもすぐ目が覚めちゃって、朝までが遠い」  だからこんな時間に。  そっと肩を抱き寄せた、雫は黙って目を閉じる。   「少し痩せたか?」 「さあ、よくわかんない」  それ以上に他人もわからない雫は、このまま一人で朝を迎えるつもりなのだろうか。   「雫、おいで」 「秋生さん」  そして二人静かにキスをした。月も見えない夜空の下で。  兄弟なのに恋をしていた、確かに、こんなにも長い間恋をしていたんだ。
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