第十九章 眠り

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「雫……」  あれから何年が経った?  いろんな関係がよじれた今では、この想いが正しいものなのかすらわからない。兄弟、アルファとオメガ、恋人。ここから先は、どこに行く?   「なあ、起きろよ雫……」    目を覚ます気配がない、まるで眠り姫。  呪いのとける百年後なんて多分俺はもう生きてはいないよ。    眠っている雫の手を離すことが出来ない。この唯一の存在は大切で仕方ないもの。俺はあと百年は生きないだろうけれど、十年くらいは生きるかもしれない。じゃあその十年を一人でどうやって生きろというのか?   「……く」  ここにいるのは孤独な男、今ではもう一人で生きる方法なんてわからなかった。  そして迎えるのは午前3時の夜明け前。寄りかかっていたベッドでは、結局雫は寝たままで。    絶望しかない。このまま静かに雫と別れる運命とは。  雫は、特別。  アルファだとかオメガだとか関係なく、雫が雫だから愛おしいのだと。   「……きろ、起きろよ、雫……」  その願いを、どうか。  そっと雫の髪をかき上げる、人形のような雫の美しい皮膚は夜の闇のなかでも白く傷一つなかった。  お揃いのネックレスのチェーンがさらさらと音を立てる。 「添い遂げよう、雫」    答えを待つ前にそっと口元をよせ、躊躇う間もなく俺は雫のうなじに噛みついた。
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