強き思い

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博打と言うからには賭博場だと察しはつく。 「流石に止めるべきと思いましたが、最初はみているでしたので興味本意で観察しているだけならばと、見逃しておりました。町の手伝いは子どもたちの為、ということは修道院の為でもありますから」 それもそうだ。下手に追及すればこちらを子どもながらに勘繰る可能性もある。下手に口を出さなかったのは妥当な判断だろう。 「まだ通っているのかと心配にはなりましたので再度行ってみたのです。……まさかの光景に目を疑いました。大人たちが皆悔しそうに、恨めしそうにメアリーを睨み付けているではありませんか。彼女の腕には抱えきれないほどの札束がありました……」 「……ああ、調度品が痛んでいたはずなのにいつの間にか修繕されたような時期がありましたね」 思い出したように。 「ええ、あれは全て使い古したかのように見た目だけ加工した"同じ型の新品"だったのですよ。こっそり通い、少しずつ入れ替えていたようです」 院長は黙るしかなかった。盗まれたお金は黒いお金だからだ。金額はメアリーが稼いだ金額に遠く及ばない。下手に返せと言えば……。 「メアリーは……私たちを恨まないでしょうか」 「育てたのは私たちです。そんなこと……」 そう強気に言うが、院長のシワだらけの手は小刻みに震えていた。 ……次第にそれが全身に広がる。脂汗が滴った。 「院長?! 」 明らかにおかしい。院長の肩を掴むと顔を覗き込む。 「ひっ……! 」 その顔は……蒼白を通り越して真っ白だった。目も白目を剥いて、すぐに口から沫が噴き出す。驚いて手を離すと、バタリとその場に倒れた。 「ひ、ひぃぃ……。な、何が……」 突然のことに混乱した。離れていたコーデリアたちにもそれが見えていたのか、不安のざわめきが起こる。しかし、シスターガーネットにはそれを宥める余裕すらなかった。いや、"時間"もなかった。 「ぐ……?! がぁぁぁぁぁ!! 」 首を押さえ、苦しみもがき出す。そのまま膝をつき、胃の内容物をぶちまけるが足らずに倒れ、胃液までもを撒き散らしながらのたうち回った。次第に動きが緩慢になると、ピクリとも動かなくなった。 子どもたちの言葉にならない叫び声が修道院に響き渡る。
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