1人が本棚に入れています
本棚に追加
━━眩しい光に包まれ、次第に瞳が慣れたそこは……。
手作りのお店が立ち並ぶ、雑然とした商店街。皆薄汚れた衣服を纏い、誰一人として裕福なものはいなかった。しかし、ゆったりとした空間。
その中を必死に走るメアリーがいた。古びたカバンを抱え、奥へ奥へ。賭博場に向かうつもりだった。
しかし、人気のない場所に入った瞬間、暗転した。
「え?! 」
興奮ぎみのメアリー。恐怖より焦りが襲う。
急がなくちゃいけないのに、急がなくちゃいけないのにと。
『……娘よ。汝、何故そこまで他者を思う? 』
頭に直接、ビリビリと響く。
「大切だからに決まってるでしょ?! 」
見えない存在に恐れていないわけではなかった。ただ、早く稼いで取り戻さねばならないものがある。
『優しさなど、一時のものに過ぎぬ』
「んなことわからないでしょ?! 」
苛立ちが勝ってくる。
『汝が勇気、すべてを守るには小さすぎる』
「……メーちゃんは、メーちゃんが守りたいものしか守らない。たとえ、誰かの命を奪うことになっても! 」
真っ直ぐな瞳で暗闇を見据える。
暫しの沈黙。ややあって。
『……娘、汝の願いを叶えよう。対価と代償をもって。我らと契約せよ』
「あんた、誰なの……?」
『我、碧眼の猟犬(グリーンアイズ・ハウンド)。汝、我が主となれ。さすれば、汝がために使役されよう』
悪魔と契約、そんなありきたりで後先がわからないものだと思った。だが、逆の立場に瞳をぱちくりする。
確かに暗闇に碧に光る瞳が見える。
「"我ら"って言ったよね? 他にもいるの? 」
『然り。主のいないものはそこかしこにいる。必要なとき、必要な"真名"が浮かぶ。我らと契約せよ。そして、"悪魔"となれ』
メアリーは瞳を閉じる。大切なものたちの顔を浮かべ、ゆっくりと瞳を開く。
「……おまえたちは、メアリーのために戦え。メアリーの大切なものを守るために戦え。メアリーが守りたいものを傷つけることは赦さない」
沈黙は肯定。
『契約は成された。汝、"瞬き輝く悪魔(トゥインクル・デーモン)メアリー"。我らが主よ』
碧眼の猟犬(グリーンアイズ・ハウンド)がゆっくりとその姿を現す。黒き炎のような揺めきの大型犬。瞳は碧眼。静かにかしずいた。
最初のコメントを投稿しよう!