穿けない理由

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穿けない理由

※『開放弦では眠れない』の後日談SSとなります。  稲光が空を走るのを一拍遅れて追いかけるように、遠い雷の音がする。  マンションの玄関に入るなり、俺は半袖シャツのボタンを上から下まで一気に外した。びしょ濡れの布地をひっぺがすみたいにしてシャツを脱いでいると、廊下の奥のLDKの扉が開く。 「うわ。湊(みなと)、ずぶ濡れだな」  同居人で恋人の理久(りく)が、濡れネズミの俺の姿を見て、精悍な顔をしかめた。 「だって、ゲリラ豪雨とか聞いてねーし」 「傘ないなら連絡しろよ。駅まで迎えに行ってやったのに」 「んー、なんかカミナリ来てるし、なるべく早く帰りたかったんだよ」  これは、半分だけ嘘だ。確かに雷は嫌いだけど、本当は一秒でも早くこいつの待ってる家に帰りたかったんだ。  タイミングよく、表からゴロゴロと不気味な雷鳴が響く。俺が大げさに首をすくめると、理久は笑って、濡れた俺の髪をくしゃくしゃと撫でてくれる。  ぽろん、とギターの弦を爪弾くみたいな優しい音が頭の中で鳴る。それだけで心がほぐれていく。もっと触ってほしくて、俺は飼い主に甘える犬みたいに、理久の肩に鼻先をすり寄せる。     
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