穿けない理由

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 目の裏に火花が散りそうなほどの快感に、内腿がひくひくと震えた。  低く重たく地面を伝うような音から、高く空に舞うような音まで、あらゆる音階の音が一度に俺の中で鳴らされる。不協和音なのになぜか心地いいのは、それらがすべて、理久の優しい音色を帯びているからだ。  俺に足りないもの。理久からしかもらえないもの。 「は……あ……ぁ……」  共鳴に全身を震わせながら、俺は理久の手の中にすべてを吐き出した。 「っ……湊……」  がくがくと震える俺の腰から、まだ達していないはずの理久が出ていく。 「やだ、なんでっ」 「今、ゴム着けてないから……あ、くそ」  呻き声とともに、ぴしゃっ、と背中に温かいものが降ってくる。中で出してほしかった、なんて、風俗をやっていた頃とは真逆のことを考えてしまうのも理久のせいだ。 「あ……悪い、せっかく買ったばかりの下着、汚しちまった」  だが、本気で申し訳なさそうな理久の声に俺は脱力してしまう。そこかよ。 「今さらだよ……」  もう既に、俺の放出したもので前布もべとべとになっている。 「仕事用には、新しいの買ってやるから許せ」 「莫迦、当たり前だ」  着けたままで致してしまったときの下着を穿いて仕事に行けるほど、俺は神経図太くねえぞ。     
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