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そこから眺める光景は、この世で一番美しいのだと私は思った。
どこまでも続くかのような広大な水平線、その向こうには空を茜色に染める雄大な太陽が顔を見せている。
海沿いにある崖の淵から見渡す空は、本来見慣れているはずなのに……眺める場所が違うだけでここまで見方が変わってくるのかと、感動すら覚えた。
これを絶景と言わずしてなんという。
そう思わせるほどに、眼前の光景は美しかった。
友人との別れや家への帰宅を想起させる夕陽はこれまであまり好きではなかったが、この崖から眺める絶景はそんな気持ちを一息に吹き飛ばしてくれる。
二人のかけがえのない友人に強引に連れられて、嫌々やって来た私ではあったが、今は連れてきてくれた事に感謝すらしていた。
「キレイ……」
思わずそんな言葉が、私の口をついて出ていた。
意識して口にしたというより、自然に言葉が溢れだしたような、そんな不思議な感覚だった。
すると傍らにいた、容姿が瓜二つな二人の少女が互いに顔を見合わせ、手と手を叩きあった。
パンっ、という破裂音は、双子の快哉のハイタッチが奏でる音色だ。
「やったね、キーちゃん」
「上手く言ったねリーちゃん」
驚かせるという思惑が上手くいったのがよほど嬉しかったのか、二人は喜色満面の様子でいた。
双子の姉であるキーちゃんは、とっておきの宝物でも見せつけるかのように、えっへんと胸を張って言った。
「ここはね、私たちのとっておきの場所なの。
パパが出張で帰ってこれなかったり、ママと喧嘩しちゃった時はリーちゃんと二人でここに来るの」
妹であるリーちゃんはコクコクと頷いて、キーちゃんと瓜二つの顔を自慢げに輝かせながら、姉の言を続ける。
「ここから見えるお日様がね、なんか慰めてくれてるみたいなの。
ツライことがあったんだね、でももう大丈夫だよって」
お日様がどうして自分達を慰めてくれるように感じるのか、この光景を眺めている今なら分かる気がする。
それは、ここから眺めるお日様が何故だかとても暖かったからだ。
遠くに……もう決して届かないところに行ってしまった私の母のように。
『レン……手を伸ばし続けなさい。
どんなに欲しいものがどんなに遠いところにあっても。
そうすればきっといつかたどり着けるわ』
ふと、母が生前口にしていたそんな言葉を回想する。
私は少しずつ西へと沈んでいく太陽を見ながら、そっと手を伸ばしてみる。
「レンちゃんなにしてるの?」
リーちゃんがきょとんとした顔で訊いてきた。
名を呼びかけられた私はほんのちょっとだけ切ない気持ちになりながら答えた。
「お母さんが言ってたの。
どんなに遠くても、手を伸ばし続ければいつかは届くって」
あの暖かい夕陽が、今はいなくなってしまった私の母のように思えて、手を伸ばしてみた。
……しかし手の中に収まっていた太陽はどうしたって掴めそうになかった。
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