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序章
「初日から遅刻なんて、最悪だよなぁ……」
ハルキは愛車のハンドルを握りしめたまま、信号で停車した車内で独り言を呟く。よれよれにくたびれたグレーパーカーの胸元には、チンケなサボテンのイラストが描かれている。服装に無頓着な彼は、今日も手近にあったそれを引っ掴んで頭から被った。それでなくても寝坊したせいで、起きたときにはもうすでに家を出るはずの時間は過ぎていたのだ。
元来、短気な性格ではないが、さすがにこの状況では焦りに襲われる。目的地まであと50キロ程度。記念すべき初出勤の予定時刻までは、残り30分を切った。
どんなに幸運が舞い降りてきて、赤信号と渋滞をかわすことができたとしても、良くて遅刻だ。悪ければ大遅刻。もしくは勤務初日にしてクビ。その最悪の結末を想像して、ハルキは思わず顔をしかめる。
はぁ、と大きなため息をつく。仕方ない。やるっきゃない。
停車中も脈打っているエンジンの振動が、四肢へと伝わってくる。まるでベンチで体を暖めたまま出番を待つスポーツ選手のように、監督である僕を急き立てているようだ。
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