赤の向こう側

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彼らが名前を思い出せない手術は、目の角膜をレーザー光線で削り、角膜の曲面を変えることにより、乱視などの屈折異常を矯正する手法のことだだろう。 いわゆる、レー、レー。 あれ? 私まで思い出せなくなった。レー、なんだったかな? 「まあ、いいや。そのレーなんとか手術を受けたんだって。ネットで安い所を調べて、東京まで行ったみたい。とりあえずその日は、目に刺激を与えないようにサングラスで一日を過ごしたんだそうだ」 そして翌朝、ヤマトは目を覚まして周囲を見回すと、まず目元に手を伸ばしたそうだ。 「目が痒かった?」 「違う。眼鏡したまま寝てしまったと思ったらしい。眼鏡を外そうとして、かけてないことに気付いた。『ああ、見える。眼鏡がなくても、よく見える』って、感動したらしいよ」 手術を受けてから、まだ二十四時間も経っていないというのに、視界は明らかにクリアになった。 眼鏡をかけているよりも、ハッキリと見える。 焦点が合うということを、人生で初めて経験したという。 「そんなに、すごいの? じゃあ、僕もしてみようかな、そのレーなんとか手術」 「待て、早まるな。話は最後まで聞けって」 その日は、日曜日だった。 視界が良くなったことを実感したくて、街を歩いてみる。
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