赤の向こう側

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「リモコンとかコンロの火以外は、別になんともないみたい。なんとなく温かいものは光ってるように感じるとか、その程度。まぶしくて寝れないなんてこともなかった。だから、まあ、いいかって」 「基本、大らかというか、いい加減な性格なんだね、大下先生って」 私もそう思う。普通なら、「まあ、いいか」じゃすまないだろう。 「でも、翌日の月曜日、大学に行ってさ、あることが起きたんだって」 教育学部A棟の壁に、ひどい落書きがしてあった。 「ある准教授の名前が書いてあって、『バカ』とか『アホ』とか、『殺す』とか『死ね』とか。黄色いスプレーで、でかでかと」 ヤマトは、一緒にいた友人に「ああ、あれ、ひどいね。誰が書いたんだ?」とたずねた。 しかし。 「友達は、首をひねって『はあ?』って」 友人には見えていなかった。その落書きが。 「それって、赤外線が見える人にしか分からないラクガキってこと?」 色白少年は、深くうなずいた。 「マジで? うわぁ、それはないよぉ!」 「ヤマトが学校内を一周してみたら、いろんなところに、いろんなことが書いてあったみたい」 学食の食品サンプルのガラス窓に、「マズイ」とか「ぼったくり」とか。 女子トイレには「盗撮カメラ作動中」とか。 すべて黄色の文字で書かれていた。
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