赤の向こう側

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乗客の大半を占める学生たちは、笑顔で友人と話し合い、この通学時間を満喫しているようだった。 一方、チラホラと見受けられるサラリーマンたちは、この通勤地獄から一秒でも早く抜け出したい、そんなしかめ面をしていた。 きっと、今の私も同じ表情に違いない。 各駅停車のこの電車は、越後赤塚駅、内野西が丘駅、内野駅と停まるたびに大量の乗客を飲みこんでいく。 ドアの近くにいたはずの私は、ズリズリと押しやられ、いつの間にか車両連結部分の壁に肩を預ける姿勢になっていた。 人と壁に挟まれて、正直、痛い。 私の目の前のシートには、二人の男子高校生が座っていた。 若いんだから席を譲ってくれ、なんていうつもりはない。 ただぼんやりと走る景色を眺めていると、彼らの会話が自然と耳に入ってきたのだ。 「あのさぁ」 「何?」 「吹奏楽部の水口が、チャリ買い換えたじゃん」 「ああ、そうみたいだね。今年に入って、二台目だよ。自転車通学だと毎日使ってるから、すぐに壊れちゃうのかな」 「いや、そうじゃないんだ。前のチャリは、全然壊れてない。なのに、なけなしのバイト代はたいて、新しいのを買ったんだよ。何でだと思う?」
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