赤の向こう側

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そこで色白少年は、「眼鏡かけてたんだ」と聞いたらしい。 するとヤマトこと大下先生は、「よく気づいたな。四年前までな。そうか、あれから四年か。じゃあ、あの話をしてやろうか」とウインクしてきたのだそうだ。 これから語られるのは、某高校の体育教師、大下和之が四年前に体験した奇妙な出来事だ。 「ヤマトはもともと乱視で、子供の頃から眼鏡をかけてたんだって」 「乱視か。僕と一緒だな」 「でも大学で陸上部に入って、短距離を始めて、眼鏡が煩わしくなったんだってさ」 「確かに、煩わしいときもあるよね。スポーツしてるときは、ズレたり、外れたり、大変なんだよ」 高価なコンタクトレンズを三度失くし、スポーツ眼鏡は常にズレる不安感を抱えて集中できない。 陸上短距離選手にとっては、コンマ一秒が勝敗の分かれ目。 成績を伸ばしたかったヤマトは、大学二年の秋に、手術することを決意したのだそうだ。 「レー」 「レー?」 「レー。ああ、なんて言ったっけ、あの手術の名前。レーなんとか」 「ああ、アレね。レー、レー。思い出せない」
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