第15章 帰郷

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 此処で具足の紐を解き、小袖に着替え寛いでいたところに、高遠城が陥落したという報せが届けられた。  「もう高遠城が落ちたのか!先日の報せでは飯島にすら進んでおらなんだのにか。城之助(信忠)め!中々やりおる。」  先日、これ以上の進軍は無用と書き送ったばかりなのに、進軍どころか難攻不落の高遠城を落とした息子に対して、複雑ながら驚嘆と称賛の情を示したのも無理はない。  「高遠城は二日未明に攻撃を開始し、一日で落ちましてございます。敵将、仁科盛信の首級は運んでいる途上にて、明日には御目にかけられるかと。まずは早馬にて落城を報せに馳せ参じましてございます。」  「相分かった!明日は岐阜に向かう故、その途上で実検するとしよう。城之助に良くやったと伝えよ!大義であった!」  信長はそう言うと使者を下がらせた。 ─────  「ここまで早く落ちるとはのぅ。四郎(勝頼)が首も信州に着く前に届いてしまいそうじゃ。」  湯殿で己の背を流す乱法師に話し掛ける。  本来であれば小姓がすべき仕事をさせてしまうのは、信長の彼に対する甘えでもある。  二人の間に垣根はなく、良くも悪くも公私共に結びついているのだ。  「先日進軍は一切無用との文を書いておいででしたから、上様の御到着を待っておられるのではないでしょうか。」  後ろを向き乱法師の額に軽く唇で触れ、可笑しそうに笑う。  「真はそう思っておらぬのであろう?武蔵守や平八が大人しくしておるものか。儂の書状など見ぬ振りで先に進んでおるであろうな。咎められたら言い訳まで考えてあるやもしれぬ。」  「申し訳ございませぬ。真に……」  兄の無茶な行動について言われると消え入りそうになってしまう。    「はは、武蔵守のやり様にはもう慣れておる。此度も獅子奮迅の働きをしたらしいからな!それよりも明日は岐阜じゃ。安土に移って六年は経っておるが住み慣れた城じゃ!此処よりはゆっくり出来るし兵達も休ませてやれる。」  翌日未明に柏原を出立し中仙道を進むと、道を横断するように流れる呂久川(揖斐川)に行き当たった。  岐阜に行くにはこの川を渡るのだが、その為の渡船場が信忠によって造られ呂久の渡しと呼ばれていた。  
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