第15章 帰郷

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 ところが信長は岐阜城にいた頃、山頂の天守を居住空間として使用していたらしい。  天守には緒大名から預かった人質も住まわせていたが、これは山頂ならば簡単に逃げられず救い出せないという考えあっての事なのだろう。  大手道を通り、信長は山頂を目指してすいすい登って行く。  先月訪れた時には山麓の御殿で信忠と対面し泊まって帰ったが、山頂まで行くのは初めてである。  城ごとで仕掛けに特色がある為、好奇心が騒いだ。  信長は嬉々とした様子で、安土に移ってから仕え始めた新参の家臣達に道案内しながら曲がりくねった道を登って行く。  標高が上がるにつれ空気は冷たく澄み渡り、草木がたまにさわさわと揺れるので目を遣ると、愛らしい栗鼠がいた。  山鳩らしき鳴き声も聞こえてくる。  斜面は意外と緩やかだが、山頂で寝て朝起きると山麓の御殿に毎日降りて来ていたというのだから凄い健脚である。  半刻はかからず頂上に着くと身体は温まり、皆少し息が荒くなっていた。  少し休憩して後、天守の最上階に連れて行かれた。  「一番上からの眺めは凄いぞ!ここからの景色だけなら安土よりも絶景かもしれんな。」  確かに素晴らしい景色である。  「あ!あそこに見えるのは大垣城でございますね。あんなに遠くまで。」  東西南北どこを見渡しても違った景色が楽しめ、南側は濃尾平野が眼下に広がり壮大な眺めである。  沈む夕陽が平野を明々と照らし、木曽川の流れを追っていると、故郷から安土に出立した日の事が懐かしく思い出された。 『さすがに金山城までは見えぬか。』  そんな事を考えながら景色に見惚れていると、後ろからいきなり抱き締められた。  「乱、金山の事を考えておるのであろう?」  「はい、木曽川の流れの先に金山の城が見えないかと──舟で下り安土に参りましたのが昨日の事のようでございます。時が経つのは早いもの。あの日が懐かしゅう思い出されて……」  後ろに顔を向けた乱法師の顎を指で上向かせると、信長は愛しげに唇を軽く重ねた。  「岐阜の次は犬山城、その次は金山に泊まるつもりじゃ!嬉しいか?」
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