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吐いた息が白く広がる。
二条の邸に今すぐにでも駆け付け、広い胸に飛び込みたかった。
戦疲れを癒し垢を落として、出陣した日と同じく大勢の家臣達を従え堂々とした姿で戻ってくるのだろう。
到着は二十五日と伝えられ、上様いよいよご帰城との知らせに留守居の家臣達は慌てふためいた。
待ち遠しくて仕方がなかった。
京から安土までは瀬田の唐橋を渡るのが早い。
早朝出立すれば昼頃には到着する筈だ。
信長には正室お濃の方、若かりし時の側室吉乃とは死別しているので、現在の側室は七名程である。
相撲大会などの催しには正室、側室も居並び、華やかな装いで見物をする事もあったり、信長に付き従い側室の住まう御殿に供をする事もあるので呼び名と顔は把握している。
母の妙向尼は斎藤道三の命で、お濃の方の尾張輿入れ時より従った侍女という縁もあり、未だに女同士で文のやり取りをしていると、お濃の方から直接聞いていた。
初出仕の頃から会えば親しげに、お濃の方から声を掛けてくる。
「えい(妙向尼の俗名)が、そなたの事を案じ、あれこれ聞かれるが、頻繁に顔を合わす訳ではないものを──えいは申しておったぞ。全く男子などと言うものは一度手を離れてしまうと、ろくに文も書かず、たまに寄越したと思えば特に変わりなく候う。とか、恙無う過ごしおり候うとか、何が変わりなく、どう元気なのかが全く伝わらず寂しい限りじゃと。そなたもたまには、もそっと心の籠った文を書き、母を安心させてやったらどうじゃ。のう、乱法師」
これには言葉が無く、母には頻繁に文を書いているつもりであったのに、知らぬところでの女同士のやり取りが恐ろしく、この先長文を書かねば信長の正室に毎回嗜められるかと思うと気が重かった。
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