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美しい小袖や高価な化粧道具、珍しい玩具等沢山の土産品で奥が賑わい、信長の表情も和らぐ。
己に向けられる顔は公私両方だが、 ここは完全に私的な空間で、信長自身が激しい気性故か、側室達は皆温和で大人しやかな女性ばかりだ。
信長を常に恐れ平伏する家臣達は、このような姿を見たらどう思うだろう。
逆に此処にいる女性達は、信長が人を斬る姿など想像出来ないのではないか。
強大な権力を有する割には美女を国中から漁るという好色な一面はなく、側室達とは穏やかで細やかな愛情の交流が見受けられ、彼女達に求めるのは肉欲ではなく優しい安らぎのように思われた。
女達をある意味敬い尊重し慈しむが故に、誰か一人に寵を傾けている様子もない。
では自分に対しては何を求めているのだろうか。
閨では支配的で独占的な愛情と共に激しい肉欲を伴うのは、己が男子で子を為す事が決してないからなのだろうか。
生殖という目的を持たない衆道(男同士の性愛を含む契り)は、突き上げる昂りに身を委ねる刹那的なものであり、出産という肉欲を減退させる現実的要素が入り難い分純粋ともいえる。
互いに求め合う気持ちが高まると、共に生きるよりも共に死にたいとさえ願う情愛が強く芽生えるのかもしれない。
南蛮菓子を頬張り他愛ない話しに花を咲かせながら和やかな時を暫し過ごした後、やがて主殿に戻った。
「来年春には城に入れるであろう。長かったが漸くじゃ!そなたの邸の普請はどうじゃ。進んでおるか? 」
「はい!もうすぐ完成致しまする」
「弟達の事じゃが、安土の城に移って後に目通りを考えておる故、暫く待て。中々気忙しくてかなわん」
「有り難き幸せ。弟達も喜んでおりまする」
「邸が完成したら安土に呼ぶが良い。母も心配しているのであろう?御台から聞いたぞ」
さも可笑しそうに笑う。
「忝のう存じまする。母は年を取りまして、少し心配し過ぎなだけかと。恙無く過ごしていると書き送っているのですが……」
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