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アンナだってそうだ。俺は別に女を殴りたかったわけじゃない。
悪いのは、俺にそうせざるをえないような状況に追いつめたウカとアンナだ。
「……ちゃんと舐めてきれいにしろ」
俺は自分の乾いた声を聞く。俺の知らない男の声だった。足で頭を小突かれたウカは、フローリングの床に這いつくばり、こぼれ落ちた自分の精液を、小さな赤い舌でぺろぺろと舐めた。
俺は舌打ちした。
我ながらくだらねえ。ダサすぎやしないか、こういう発想。暴力の方がまだしっくりくる。
それでも必死に床を舐めているウカを見ていると、なんとなく溜飲が下がる。ウカのこめかみあたりから血がにじみだしている。つま先が熱をもっているように感じて見下ろすと、足の爪が割れていることに気づく。……ダセ。どうせなら、もう少し考えてやればいいのに。
そして、アンナの手を思う。
俺を殴った手。小さな手。今頃手や爪が痛かったりするのだろうか。
携帯がさっきからずっとピカピカ光り、震え続けている。
ウカは俺を見上げると、ふわっと笑い、「セーエキ、クソ不味い」と言った。
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