和島レンです。

2/2
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/49ページ
ああ、狭い。毎日見上げている空がやけに近い。今日咲く、桜たちが僕の鼻にまとわりついてくすぐったい。 ――そう、僕は人生で初めて登校する―― 人混みの中、僕は目が回りそうになるのを必死で耐えながら教室というものを探し回った。 「あっ。あったぁ」と小声で漏らし、そっと1-5教室に入ってみる。何だかよく分からないが、とにかくガヤガヤと異様な雰囲気だ。僕は自分の席を見つけると途端に膝から崩れ落ちるようにヘコッと座ってしまった。するとドアが開き先生が入ってきて何やら配布物を配り、話している。今の僕にとっては目の前にある紙も先生の顔も真っ白で、存在していないみたいだ。なにせ目まぐるしくて脳の処理が追いつかない。 「――――じゃあ、ええかぁ皆。私の名前は……」 「――――今から自己紹介してもらうからなぁ。はいじゃあ、崎山くん? 君からよろしくね」 ぼうっとしていたらいつの間にか自己紹介タイムに突入していた。僕は何と言おうか。だんだん自分の順番が近づいてきて心臓がその音を大きくする。なるべく感じよく。差し障りないようにするんだ! 「ぁ皆さんこんにちは。僕の名前は和島レンです。趣味はマンガを読むことで、部活はまだ決めていません。これから、よろしくお願いします」 よし! ちゃんと模範解答でしょ。正直マンガはあまり読んだことが無いし、部活とは何かすらよく分からないけど、とりあえず大丈夫そう。 その後とは言うものの皆の自己紹介を聞いているようで全然頭に入ってこなかった。ただ、僕もクラス中が注目するほど強烈なインパクトを残した2人くらいは覚えている。1人は1日目とは思えないほど大きく高い声ではしゃぎ回っていた小さい男の子。もう1人はとても綺麗でどよめきが起きるほどの女の子だった。覚えていると言ってもこの程度だが…… 「あぁっ……つぅっ……」 突然、僕の頭に鋭い痛みが走る。またこれか。覚えているとかいないとかって考えることが僕にとってストレスになっているみたいだ。なぜならその度に思い出してしまうから。自分が記憶を失っていることを。
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!