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*8th*『終わりを告げる時に私と貴方は…』
*
"あのさ…お互い、ちゃんと付き合おう?"
花火が綺麗に咲いては、一瞬にして儚く消えてしまったあの日…
私は健太郎くんと約束した。
"もう菅田くんとは終わりにする"
あの夜、菅田くんから着信がきていたのに後から気付いた。メールも来ていた。
「ごめんなさい…」
私の中の菅田くんへの気持ちはそれしか残っていなかったのかもしれない。
菅田くん…
私は、貴方に何か出来ましたか?
「きゃ…」
その時、
大学の教室の窓から吹き込んだ風が強くて手にしていたプリント達が流れるように窓から落ちていった。
"やば…!"
ここは三階。
あっという間に下へ落ちていったプリントを目で追っていると…
「…あ」
プリントを拾い集めると、こちらを見上げた人物がいた。
「……菅田くん」
私は息を飲んだ。
・・・・・・
「気を付けなよ…?笑」
「うん、ありがと」
下へ降りる途中の階段で
菅田くんと会った。
彼自身からも私の元へ来てくれていたのだった。
話さなきゃ…
「菅田くんあのね…」
「葵…」
「え…?」
「なんか痩せたんちゃう?」
「…え、そう、かな」
「うん。なんか痩せた。」
「そんなことないよ…」
「そっか…」
「菅田くん……私ね、あのね」
何でだろうね…涙が出て来た
偽りばかりだったのにね
人の気持ちってこんなに重いんだ
「うん…」
「菅田くんと、別れたい…」
そう言った私の頬を彼は優しくなぞる。
「何泣いてんねん…笑」
そして両手を私の顔に添えて
二カッと笑って見せた。
「菅田くん…」
「分かっとったで。葵が俺以外の男のことを好きって。」
「…え」
「全部分かっとった。…それが原因なんやな、お前が痩せたの。
葵は優しいからきっと俺への罪悪感とかやろ…?」
「…」
「でもそれだけちゃう」
「…?」
「あの男がどうしようもなく好きやからやで。だからずいぶん綺麗になったんやなぁ…」
ねえ、菅田くん…
ごめんね。
こんなこと言わせて…。
「葵…?」
「ん?」
「俺、後悔してへんで?お前の隣におれたこと。」
「なんで…っ、」
「だって俺は目の前におるお前が好きだったんやもん。(笑)お前しかおらんって思ってしまったんやもん。それが、ただ、二人とも同じ気持ちにならんかっただけや。」
「…ごめん」
「だからなんで謝んねん…(笑)両想いって、奇跡なんやで?
俺は葵に幸せになって欲しい…
なあ、葵…?幸せになって?」
「…ありがとう」
私は菅田くんに、
何かを与えられたのだろうか。
こうして、私と菅田くんは
"恋人"じゃなくなった。
・・・・・・・
kentaro side
「パンケーキと、ミルククレープと、ん〜…あ、チョコレートパフェと…」
行きつけの喫茶店でメニューを片手に、注文する充希がいた。
「ちょ…充希、頼みすぎじゃない?」
俺はそれを止めに入った。
いくらなんでも頼みすぎだ
こんなに小柄な体のくせに。
すると、彼女はこう言った
「沢山頼んだ方が一緒におる時間長くなるやん。」
「…へ?」
「あ…飲み物はコーヒー二つで。」
彼女はいつだって器用な人間だ
切り替えもいいし
人の図星をつくのも上手い
_____まさか。
頭の中に何かがよぎるが、気づかないふりをした。
彼女は人より勘が鋭い。
俺の中で緊張が高まった。
早く…切り出さなきゃ、、
「あのさ充希…」
「健ちゃん。」
「…」見事に言葉を被せられた
「…北海道の人ってフランクフルトにお砂糖かけて食べるらしいよ。」
「え?あ…そうなんだ。」
「ありえんよね〜。(笑)」
彼女なりの話の逸らし方なのだろう。さっきから全然こっちを見ない。
「健ちゃん…」
「ん?」
「私のどこが好き…?」
「…」
それはさすがに言い難い。
僕はもう、君のこと…
「…言えんとやろ」
「…ごめん」
「なんで謝ると?(笑)」
「いや…その…ごめん」
「なんやねん…もう」
苦笑しながら彼女は
運ばれた珈琲を一口飲んだ。
前までは勘が鋭くて、周りが見えていて俺のことを誰よりも分かってくれている充希が好きだった。
壊れそうな小さい体のくせに強がるところとか、たまに甘えてくる大きな目とか…たまらなく愛おしかった。
愛おしかった…のに、
「そういえばさ…あの日結局みんな珈琲飲まんかったね。」
「え…?」
______"あの日"?
「学園祭の日。」
「あ…、うん」
"葵ちゃん危ないっ!!"
"なんで健太郎、この子の名前知っとると?まだ聞いてないのに。"
俺のせいでみんなを巻き込んだ日…
「…どうせ、飲まんかったとやろ?二人きりになっても。」
「二人きりって…」
「あの日ねぇ、用事があるっていなくなったけど、あれ嘘やったとよ?」
「え?」
「二人の関係…もう知ってる」
「…」
「あんな女でええと?ねえ、どうせ色んな男に媚び売ってるとじゃない?」
「なんでそんなこと言うんだよ」
「私無理やわぁ。健ちゃんと身体だけで繋がってられるコトだけが救いじゃなかと?あの子」
その言葉に苛立ちを覚えた。
同時に、充希ちゃんの言葉とは正反対の
繊細で儚い、目を離したら今にもどこかに飛んで行きそうな葵ちゃんの姿が思い浮かんだ。
彼女が誰よりも傷つきやすく、気持ちを押し殺すことを俺は知っていた。
「お前さぁ…っ!!」
そう言って立ち上がったときだった
「挑発されたからって怒らんで?」
上目遣いで彼女は言った。
はっとした。
彼女は俺の何倍も上手(うわて)だ。
そして俺のことを分かってるからこそ、俺がどんな行動をすれば怒るのかを彼女は察して挑発したんだ。
あざといというか、確信犯だ。
「健ちゃん…」
そう言って彼女は俺の袖の裾を引っ張った。
「私、今健ちゃんに捨てられたら死んでしまう。」
俺はそのまま何も言い出せなかった。
・・・・・・・
〜♪
≪健太郎へ
私、カフェで待ってます。
あと、渡したいものがあるんだ。
気をつけて来てね。
あんまり急がないでね。
あおい ≫
・・・・・・・・
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